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②呪術廻戦〜脹相と恋人〜

第57章 小さな幸せ


トタ。

トタ。

(来る)

振り返らない。
来ることが分かっているから。

「脹相」

ひょこっ。

(…………可愛い)

また同じことを思う。

何度見ても飽きない。

なぜそんな顔をするのか。
なぜ俺の背後から来るのか。

理由を聞いたことはない。
聞く必要もないと思っていた。
お前が楽しそうなら、それでいい。

俺はただ、その瞬間が好きだった。

それが、少しずつ変わっていった。

ある日。

いつものように足音がした。

トタ、トタ。

俺は振り返らずに待った。
だが、その日はいつもと違った。

肩越しから顔が出てくる代わりに――

耳元に、吐息が触れた。

「……脹相」

「…………!」

一瞬、身体が固まった。

近い。あまりにも近い。

名前を呼ばれただけなのに。
耳元で囁かれただけなのに。
鼓膜に直接声が触れたような気がした。

「どうしたの?」

「……いや」

何でもないふりをする。

だが、何でもないわけがない。

(…………近い)

耳が熱い。絶対に熱くなっている。

(落ち着け)

ただ名前を呼ばれただけだ。
いつも呼ばれている。

それなのに

(……耳元で呼ばれると、こんなにも違うのか)

俺の名前を呼ぶ声。

それ自体が好きなのに、
こんな距離で聞かされたら――

(……駄目だ)

嬉しすぎる。
顔に出てしまいそうだった。
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