第57章 小さな幸せ
最初は、ただの足音だった。
トタ、トタ、と。
俺の背後から聞こえてくる、小さな足音。
最初にそれを聞いた時は、何も思わなかった。
誰が来たのかなど、すぐに分かったが
振り返る必要もない。
この家で、俺のところへそんなふうに近づいてくるのは、お前くらいだから。
そして――
「脹相」
ひょこっ。
俺の肩越しから、お前が顔を出した。
「……どうした」
「呼んでみただけ」
そう言って笑う、
それだけだった。
ただ、それだけだったはずなのに。
(……可愛い)
最初にそう思った。
ひどく単純な感想だった。
だが、それからというもの。
俺はお前の足音が聞こえると、少しだけ待つようになった。