第56章 睡眠
「脹相?」
帰宅すると、彼女が玄関まで迎えに来てくれた。
「おかえり」
「ああ。ただいま」
いつも通りの笑顔。
その顔を見た瞬間、脹相は安心した。
「……なあ」
「ん?」
「今日、高専の、廊下で…乙骨と何を話していた?」
「え?んーと、確か今日の任務のことと……最近ちゃんと眠れてるかって話だったかなぁ?」
「そうか」
「うん。私、前よりずっと眠れるようになったから」
彼女が嬉しそうに笑う。
「脹相が一緒にいてくれるからね」
「……」
また胸が熱くなる。
しかし。
「そういえば憂太が、もうクマさんはお役御免かなって言ってた」
「……」
脹相は一瞬だけ目を逸らした。
「……そのことだが」
「?」
「俺は最初、乙骨が……その……」
「うん?」
「お前と添い寝をしていたのかと思った」
「…………え?」
彼女が目を丸くする。
数秒の沈黙。
そして。
「ふふっ」
「笑うな」
「だって……!」
彼女はお腹を抱えて笑い始めた。
「脹相、嫉妬したの?」
「……した」
「可愛い」
「可愛くない」
「ふふふ……」
笑いながら、彼女が脹相の腕に抱きつく。
「でも安心して」
「……?」
「今、一緒に寝たいのは脹相だけだよ」
脹相の耳が赤くなる。
「……そうか」
「うん」
「……なら、いい」
そう言って彼女を抱きしめる。
しばらくして、彼女がふと思い出したように言った。
「そういえば、あのクマの人形、まだ部屋にあるよ」
「……」
「どうする?」
脹相は少し考えてから答えた。
「……捨てなくていい」
「いいの?」
「ああ」
そして、彼女の頭を優しく撫でる。
「お前が俺と寝てくれるなら、それでいい」
「……ふふ。じゃあ、今日も一緒に寝ようね」
「もちろんだ」
脹相は彼女を抱きしめ直した。
クマの人形が悪いわけではない。
そもそも俺が一緒に眠っているのだからそれでいい。
その事実に、脹相は密かに満足していた。