第55章 俺は愛されている
「……脹相?」
「ん?」
「どうしたの?」
「……もう少しだけ」
そう言って、また抱きしめる。
さっきよりも強く。
けれど苦しくないように、慎重に。
彼女が何も言わずに身を預けてくれると、脹相は小さく息を吐いた。
――愛されている。
その実感が、胸の奥にじわじわ広がっていくと、
やがて彼女が眠そうに目を擦る。
「眠いのか?」
「うん……」
「じゃあ、寝よう」
そう言ったのに。
彼女が離れようとすると、脹相の手が反射的に袖を掴んだ。
「……」
「脹相?」
「……すまない」
手を離そうとする。
けれど、彼女はその手を握り返した。
「このままでいいよ」
「……」
脹相は何も言えなくなった。
そのまま隣に横になる。
彼女が目を閉じると、脹相はしばらくその寝顔を見つめていた。
そして、起こさないようにそっと髪を撫でる。
「……ありがとう」
小さく呟く。
返事はない。
それでも脹相は、また髪を撫でる。
「……俺を、こんなに安心させてくれるんだな」
眠っている彼女に言っても仕方がない。
分かっている。
それでも言わずにはいられなかった。
やがて脹相も目を閉じる。
けれど数分後。
また目を開ける。
彼女の手を探して、指を絡める。
それから、確かめるように握る。
「……」
手を繋いでいる。
離れていない。
自分を受け入れてくれている。
そう思うだけで、また胸が熱くなる。
――俺は、本当に愛されている。
そう思った途端、脹相はふと、彼女が誰かと楽しそうに話しているところを想像した。