第53章 脹相の声
「……?」
「少し、耳を貸してくれ」
「え?」
言われるまま顔を向ける。
すると脹相が、耳元に顔を近づけた。
近い。その時点ですでに、心臓が少し速くなる。
そして――。
「……好きだ」
低く、静かな声が耳元に落ちた。
「――っ!」
私は一瞬で顔が熱くなった。
「え……っ、ちょ……」
思わず耳を押さえて俯いてしまう。
心臓が、さっきまでとは比べ物にならないくらい速くなっている。
どくどくとうるさい。
脹相はそんな私を見て、固まった。
「…………」
予想以上だった。
本当に、驚くほど真っ赤になっている。
「……どうした?」
自分でも分かっているくせに、脹相は尋ねる。
「だ、だって……急に耳元で言うから……」
「そうか」
そう答えたものの――。
脹相は内心、それどころではなかった。
(……可愛い)
胸の奥が、きゅっと締まる。
(こんな顔をするのか)
さっきまでの「声が好き」という言葉の意味を知りたくて試しただけだった。
なのに。
耳元でたった一言囁いただけで、こんなに恥ずかしそうに俯いてしまう。
「……なるほど」
「な、何が……?」
「お前が俺の声を好きだと言った理由が、少し分かった気がする」
「……分かったの?」
「ああ」
脹相は真剣に頷いた。
そして、まだ赤い彼女の顔を見つめる。
「俺が近くで話すと、こうなるんだな」
「……っ」
また顔が赤くなる。
それを見た瞬間、脹相は思わず口元を手で覆った。
「……?」
「……いや」
隠しているけれど、耳まで少し赤い。
「脹相?」
「……可愛すぎる」
「え?」
ぽつりと漏れた言葉。
脹相自身も、言ったあとで少し驚いたように目を瞬かせる。
けれど、もう止まらなかった。
「もう一度言ってもいいか?」
「……何を?」
脹相は耳元へ、ゆっくり顔を近づける。
そして――。
「好きだ」
「――っ!」
また真っ赤になる。
脹相は今度こそ耐えきれず、彼女を抱き寄せた。