第44章 留守番
「ただいまー」
玄関から、聞き慣れた声がした。
「……!」
脹相はすぐに目を開ける。
帰ってきた。
彼女が帰ってきた。
「脹相ー?」
足音が近づく。
やがて、彼女が部屋を覗き込んだ。
「……あ」
ベッドにいる脹相を見つけて、目を丸くする。
「ここにいたの?」
「ああ」
「珍しいね」
「……」
脹相は少しだけ視線を逸らす。
「前に、お前が言っただろう」
「何を?」
「俺がいない時でも、部屋に入っていていいと」
「ああ!」
彼女は嬉しそうに笑った。
「言ったね」
「だから……」
脹相は少し言葉を探す。
「今日は、ここにいたかった」
「……」
「お前がいなくて、少し寂しかったから」
チラリと様子を伺うと、彼女の表情が柔らかくなる。
「ふふ」
「笑うな」
「ごめん。でも、嬉しい」
「……そうか」
するといつものように彼女が両腕を広げる。
「じゃあ、おいで」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間。
脹相は反射的に立ち上がっていた。
「……」
自分でも驚くほど早い。
彼女ところまで歩いていき、そのまま抱きしめる。
「おかえり」
「ただいま、脹相」
腕の中にがいる。
それだけで、さっきまでの寂しさが嘘のように消えていく。
「……やはり」
「ん?」
「お前がいる方がいい」
「ふふ」
私は脹相の背中を撫でる。
「じゃあ、今度から寂しい時は私の部屋にいていいよ」
「……本当に?」
「うん。前にも言ったでしょ?」
「……ああ」
脹相は少しだけ安心したように目を細める。
そして心の中で思う。
――そう言ってくれるなら。
――次に寂しくなった時も、ここに来よう。
彼女の部屋で。
彼女の香りを感じながら。
帰ってくるを待っていよう。
けれど。
「……」
そのことを考えながら、脹相は私をもう一度抱きしめる。
結局、自分が一番欲しかったのは。
彼女の部屋ではなく。
彼女自身だった。