第5章 初めてのハグ
頬は少し赤く、目元には照れたような笑みが浮かんでいる。
抱きしめられたまま、嬉しそうに彼を見上げるその表情が、脹相にはたまらなく可愛く見えた。
今までにも、眠そうな顔や、笑っている顔を何度も見てきた。
けれど今の顔は、恋人として自分に抱きしめられたことで見せてくれたものだ。
そう思うと、胸の奥がさらに熱くなる。
「……どうしたの?」
視線を向けられたまま黙っている脹相に、私は首を傾げる。
「いや……」
脹相は一度目を逸らしかけた。
けれど、結局はまた私を見る。
「……お前の顔が、可愛いと思った」
「……え?」
あまりにも真っ直ぐに言われて、思わず目を見開く。
「今の顔だ」
「どんな顔……?」
「俺に抱きしめられて、嬉しそうにしている顔」
脹相は真剣だった。
からかっているわけでも、思いつきで言っているわけでもない。
だからこそ、頬が一気に熱くなる。
「……そんなこと、急に言わないでよ」
「すまない。だが、本当にそう思った」
「……もう」
恥ずかしくなって、脹相の胸元に顔を埋める。
すると脹相は、そんな私を見てさらに腕に力を込めた。
「……今の顔も可愛い」
「見ないで」
「無理だ」
「脹相……」
「お前が可愛いから、見ていたい」
低く落ち着いた声でそんなことを言われて、ますます顔が熱くなる。
しばらくして、脹相が少しだけ身体を離した。
目が合う。
今度は、私のほうが恥ずかしくて視線を逸らした。
「じゃあ……」
脹相が玄関のほうを見る。
「そろそろ行かないと」
「うん」
「……行ってくる」
「いってらっしゃい」
今度こそ、脹相がドアに手をかける。
そして――
「……なあ」
「ん?」
振り返った脹相が、少しだけ躊躇う。
「……これは」
「うん?」
「……毎朝してもいいのか?」
「……」
思わず笑顔になる。
「いいよ」
「……そうか」
脹相も、ほんの少し嬉しそうに笑った。
「なら、そうしよう」
脹相は玄関を出て、ゆっくりとドアを閉めた。