第42章 少し引きずる脹相
「……」
思い当たることが、いくつもある。
俺が少し疲れているだけでも、すぐに気づく。
俺が何も言わなくても、「大丈夫?」と聞いてくる。
それなのに、自分が無理をしていることにはなかなか気づかない。
「確かにね」
野薔薇が頷く。
「自分がどう見られてるかとか、自分がどう思われてるかとか、そういうところには無頓着なのよね」
「そうそう!」
悠仁も笑う。
「でも、そういうところがらしいよな!」
恵は少し黙ってから、ぽつりと言った。
「……まあな」
そして、少しだけ視線を逸らす。
「自分がどう見られるかとか、あんまり気にしないだろ。人のことばっかり気にして、自分のことは後回しにするし」
「確かに」
悠仁が頷く。
「変に格好つけたりもしないしな」
「ああ」
恵は短く答える。
「……そういうところは、男らしいんじゃないか」
「男らしい……」
俺は心の中で、その言葉を繰り返した。
男らしい。
恵が言いたいのは、きっと飾らないところや、自分より周りを優先するところなのだろう。
けれど昨日のことが、ふと頭をよぎった。
浴室の扉を開けた瞬間。
目が合った時、俺はすぐに視線を逸らした。
そのあとも、あいつはいつも通りに話していた。
俺だけが意識してしまっていた。
そして最後には、
『脹相の心の準備ができたらね』
そう言って、笑っていた。
「……」
もしかすると昨日のことも、当てはまるかもしれない。
あいつは、人の気持ちには敏感なのに。
自分のことになると、鈍い。
だから俺が思っているほど、あいつは気にしていないのかもしれない。
俺だけが、必要以上に意識しているのかもしれない。
「……」
そう考えると、少しだけ肩の力が抜けた。
「脹相?」
恵の声で我に返る。
「……何だ?」
「さっきから黙ってるけど」
「ああ……」
俺は少しだけ笑った。
「何でもない」
昨日のことは、やはり誰にも話さなくていい。
これは俺とあいつの間だけに置いておけばいい。
ただ――。
恵の言葉を思い出す。
そういうところは、男らしいんじゃないか。
俺は小さく息を吐いた。
……確かに。
あいつらしいのかもしれない。
そして、そう思った途端。
昨日より少しだけ、あいつのことが愛おしく感じられた。