第41章 朝のシャワー
ある朝。ランニングから帰ってきた私は、
そのまま浴室でシャワーを浴びていた。
脹相は私がまだ浴室にいるとは知らず、
風呂掃除をしようと扉に手をかける。
カチャッ。
扉が開いた。
「……」
湯気の向こうに、私の姿。
一瞬だけ、目が合った。
「……っ!」
脹相は息を呑み、反射的に視線を逸らした。
「す、すまない……!」
バタンッ。
勢いよく扉が閉まる。
「……」
脹相は扉の前に立ったまま、動けない。
心臓が、異様なほど大きく鳴っている。
ドクン、ドクン、と耳の奥まで響く。
今のは事故だ。
見るつもりなんてなかった。
ただ、扉を開けただけなのに
一瞬だけ目に入った姿が、頭から離れない。
視線を逸らしたはずなのに。
脳裏には、あのシルエットが鮮明に残っている。
「…………」
どうすればいい。
そんなことを考えていると、浴室の中から声がした。
「脹相?」
「……!」
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
声が少し上ずった。
けれど、私は特に気にしていないらしい。
「ふふ、びっくりした。まさか扉が開くとは思わなかったから!」
「……すまない」
「ううん。私もちゃんと声かければよかったし」
私はそう言って、何事もなかったようにシャワーを浴び続ける。
そして、ふと思い出したように話しかける。
「そういえばさ、今日のランニングすごかったんだよ」
「……そうなのか」
「うん。悠仁が張り切っちゃってさ~」
「……悠仁が?」
「あの子、朝からめちゃくちゃ元気で。野薔薇ちゃんも私も途中からバテちゃってさ~」
「……そうか」
「もう最後なんて、『先に帰ってもいいよ!』って感じだったのに、悠仁だけ全然疲れてないの」
「……あいつらしいな」
なんとか普通に返事をする。
けれど、脹相の心臓はまったく普通ではない。
ドクン。
また思い出してしまう。
さっき、一瞬だけ見えた姿。