第38章 逃げる
布団の中。
脹相は私を抱きしめたまま、まだ少しだけ遠慮しているようだった。
腕の力も、触れ方も。まるで、少しでも強くすれば私が嫌がるのではないかと思っているようで、やはり少し寂しい。
「……脹相」
「ああ」
「まだ心配?」
「……少しな」
「じゃあ、ちゃんと伝えるね」
私は脹相の胸元から顔を上げる。
「寝てても抱きしめていいよ」
「……」
「したくなったらキスしてもいい」
脹相の目がわずかに見開かれる。
「それに、眠ってる私を起こしてもいいから」
「……起こしても?」
「うん」
私は小さく笑う。
「寝てる時に寂しくなったら、起こしてくれていい」
脹相は何も言わない。
ただ、私を見つめている。
「だから……」
私は彼の服をそっと掴む。
「離れないで」
「……」
脹相の表情が変わった。
驚いたような。
それから、少しだけ苦しそうな顔。
「……お前」
「うん」
「そんなことを言われたら……」
言葉が途切れる。
脹相は一度目を伏せて、ゆっくり息を吐いた。
「本当に、離れられなくなる」
「それでいいよ」
「……本当に?」
「うん」
脹相はしばらく私を見つめていた。
そして、そっと頬に手を添える。
「……分かった」
声が、とても優しい。
「もう、勝手に離れない」
「約束?」
「ああ。約束する」
そのまま、脹相が私を抱き寄せる。
今度は、さっきよりもしっかりと。
けれど苦しくはない。
ただ、確かにここにいると伝えるような抱き方だった。