第38章 逃げる
その夜も、私は何も知らずに脹相の隣で眠っていた。
けれど、ふと目が覚める。
「……ん」
隣に手を伸ばす。
いつもなら、すぐに脹相に触れるはずなのに
どこまで手を伸ばしても脹相に当たらない。
「……あれ?」
何もない。
隣が空いている。
布団を触ると、少し冷たくなっていた。
「……脹相?」
暗い部屋の中で小さく呼んでみるが返事はない。
寝ぼけた頭で周囲を見る。
するとかすかに、水の流れる音が聞こえた。
シャアア……。
「……シャワー?」
こんな時間に?と思って、私はゆっくりベッドを出る。
廊下へ出ると、やっぱり浴室から水音が聞こえた。
「……よかった、脹相、いたんだ」
少し安心する。
しばらくすると、水音が止まった。
やがて浴室の扉が開く。
「……!」
出てきた脹相が、私を見て止まった。
「……起きていたのか」
「うん」
脹相は少し驚いた顔をしている。
「何してたの?」
「シャワーだ」
「それは分かるけど……」
私は脹相を見る。
「夜中に?」
「ああ」
「……どうかしたの?大丈夫?」
「……問題ない」
そう言って脹相が黙る。
その沈黙で分かった。
「今日だけだよね?」
「……」
「……前も?」
「ああ」
「何回くらい?」
「……何度か」
「何度か!?」
思わず声が大きくなる。
脹相が少しだけ目を逸らした。