第36章 カラオケ
「……待て」
今さらながら気づく。
この動画は誰が撮っている?
画面にはあなたしか映っていない。
ということは
「……伏黒か?」
途端に、胸の奥に小さな引っかかりが生まれる。
伏黒が撮っている。
いや、そもそも幼馴染なのだから一緒にいること自体は不思議ではない。
分かっている。
分かっているのだが。
このセリフを前にどんな顔で動画を撮っているのだとモヤモヤが残る。
「……」
なんとなく面白くない。
画面の中で彼女が楽しそうに歌っているのを見ながら、脹相は少しだけ眉を寄せた。
そして動画は終盤へ。
彼女が歌詞に合わせて、再びカメラを見る。
その瞬間――。
「大好きだよ! 野薔薇ちゃん!」
「……?」
脹相が瞬きをする。
数秒の沈黙。
そして、ようやく理解した。
「……野薔薇か」
撮影者は伏黒ではない。
野薔薇が彼女を撮影して、その動画を伏黒に送った。
そして伏黒が、それを脹相に回したのだ。
さっきまで胸の中にあった妙なモヤモヤが、一瞬で消える。
「……そういうことか」
安心した。
ものすごく安心した。
自分でも少し驚くくらいに。
脹相は改めて動画を見直す。
「……やはり可愛い」
今度は余計なことを考えず、素直にそう思えた。
けれど、気になったことは聞いておいた方がいいと、
脹相は伏黒にメッセージを送った。