• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

②呪術廻戦〜脹相と恋人〜

第35章 帰ってきたら


「……っ」

強い。
けれど、苦しいほどではない。
ただ、絶対に離さないというように、脹相の腕が私を包んでいる。

「ちょ、脹相……?」

「……いた」

「え?」

「……いた」

低い声が、耳元で震えていた。

「よかった……」

その声を聞いて、私はようやく気づく。
脹相が、少しだけ震えている。

「……どうしたの?」

「帰ったら、お前がいなかった」

「あ……」

「家が静かで……」

そこで言葉が途切れる。
脹相は私の肩に顔を埋めたまま、しばらく動かなかった。

「……出ていったのかと思った」

「え……」

「俺がいない間に、いなくなったのかと」

「そんなわけないよ」

私は彼の背中に腕を回す。

「脹相の好きなもの買いに行ってただけ」

「……そうだったのか」

「早く帰ってくると思わなかったんだもん」

「……そうか」

それでも脹相は離れない。

「任務、半日で終わったの?」

「ああ」

「早すぎない?」

「早く帰りたかった」

その一言に、胸がきゅっとなる。

「……私も会いたかったよ」

そう言うと、抱きしめる腕がまた少し強くなった。

「……朝」

「うん?」

「帰ってきたら、沢山くっついていいと言っただろう」

「言ったね」

「……覚えているな?」

「もちろん」

私は笑って、彼の髪を撫でる。

「じゃあ今日は、好きなだけくっついてていいよ」

脹相はしばらく黙っていた。

そして、ようやく顔を上げる。
少しだけ安心したような、それでもまだ名残惜しそうな目。

「……本当に?」

「うん」

「なら――」

 再び、ぎゅっと抱きしめられる。

「今日は離れない」

「ふふ。買ってきたもの、冷蔵庫に入れたいんだけど」

「あとでいい」

「でも……」

「あとでいい」

珍しく子供みたいなことを言う脹相に、私は笑ってしまう。

「もう。しょうがないなあ」

そのまましばらく、玄関で抱きしめられていた。
買い物袋が足元に置かれたままでも。

 冷蔵庫に入れなければならないものがあっても。

 今はただ、帰ってきた脹相を安心させてあげたかった。

「……おかえり、脹相」

 耳元でそう囁く。

 すると脹相は、私の肩に顔を埋めたまま小さく答えた。

「……ただいま」

 ようやく、帰ってこられたのだと。

 そんなふうに聞こえた。
/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp