第35章 帰ってきたら
任務は、予想以上に早く終わった。
脹相は帰り道を急ぐ。
一日離れているつもりだったのだから、
半日で帰れるなら、それに越したことはない。
「……ただいま」
玄関の扉を開ける。
返事がない。
「……?」
靴を脱ぎ、家の中へ入る。
いつもなら、すぐに「おかえり」と笑う声が聞こえるはずなのに。
足音、あるいは、玄関まで迎えに来てくれる気配。
けれど今日は何もない。
しん、と静まり返っている。
「……?」
脹相は眉を寄せた。
「?」
もう一度声をかけても返事はない。
リビング、各々の部屋、キッチン。
どこにもいない。
脹相の胸の奥に、嫌な感覚が広がっていく。
「……出かけたのか?」
テーブルの上を見るが何か書き置きがあるわけでもない。
スマホを取り出し、連絡をしようとして指が止まった。
もし、彼女が。
自分がいない間に、ここを出ていってしまったのだとしたら。
そんな考えが、一度浮かんでしまうと消えなかった。
「……いや」
自分に言い聞かせる。
「そんなわけがない」
朝、笑っていた。
「いっぱいくっついていい」と言ってくれた。
自分を見送ってくれた。
それなのに家の中には、彼女がいない。
脹相はソファに腰を下ろした。
いつも彼女が座っている場所。
いつもなら、ここに彼女がいる。
その事実に気づいた瞬間、胸が締め付けられた。