第4章 手を繋ぎたい
付き合ってから何かが大きく変わったわけではなかった。
同じ家に帰って、同じテーブルで食事をして、いつものように他愛のない話をする。だけどほんの少しだけ空気が違っていた。
「脹相、そろそろ行こ」
「ああ」
二人で出かけるために家を出る。
並んで歩く距離もいつもと変わらない。
ただ、以前なら人混みを歩くとき、脹相が何のためらいもなく私の手を取っていた。
はぐれないように。危ないから。
そんな理由をつけながら。
だから今日も、当たり前のようにそうするのだと思っていた。
駅前の人混みに差しかかったとき、隣を歩いていた脹相の手が、私の手の近くまで伸びてくる。
けれど触れる直前で、ぴたりと止まった。
「……」
脹相は何事もなかったように手を引っ込める。
「……?」
私は思わず彼の顔を見る。
「どうしたの?」
「いや……何でもない」
明らかに何でもない顔ではない。
少しだけ眉間に皺が寄っている。
歩きながら、脹相は何度か私のほうを見たけれど、目が合うとすぐに前を向いてしまう。
「脹相」
「何だ」
「さっき、手……」
「……」
しばらく沈黙したあと、脹相が小さく息を吐いた。
「……繋ごうと思った」
「うん」
「だが……」
言葉が続かない。
「だが?」
「……昨日までなら、何も考えなかったんだ」
脹相は少し困ったように私を見る。
「お前が隣にいるなら、手を取る。それだけだった」
そこで一度言葉を切る。
「だが、お前は俺の恋人なんだと思うと、妙に意識してしまう」
「……」
「今までと同じことをするだけなのに、どうしていいのか分からなくなった」
あまりにも真剣に言うものだから、思わず笑ってしまう。