第29章 乙骨憂太とタオル
「じゃあ帰ろう、脹相」
「ああ」
私は自然に脹相の腕に自分の腕を絡めた。
すると、脹相の表情が少しだけ柔らかくなる。
「憂太、また明日ね」
「うん。また明日」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとう。もね」
手を振る憂太に私も手を振り返す。
そのまま脹相と歩き出したが、脹相はしばらく無言だった。
「……脹相?」
「なんだ」
「今日、なんか機嫌悪い?」
「悪くない」
「嘘。ちょっと怖い顔してる」
「……」
脹相は黙ったまま歩く。
そして、ぽつりと呟いた。
「……お前の匂いを、他の男が気に入ったと言った」
「?」
私は数秒考えてから、目を瞬かせる。
「ああ、タオルのこと?」
「そうだ」
「でもタオルだよ?」
「分かっている」
「憂太、何にも考えてないと思うよ?」
「……それも分かっている」
「じゃあ、なんで?」
脹相は足を止め、私も立ち止まる。
夕暮れの中、脹相は少しだけ眉を寄せていた。
「……分からない」
「?」
「ただ、嫌だった」
「……」
「お前の匂いを、他の男が『いい匂い』と言うのが」
そう言った脹相の顔は、少しだけ寂しそうだった。
私はようやく意味を理解する。
「あ……」
そして、思わず笑ってしまう。
「脹相、嫉妬してる?」
「……」
「ふふ」
「笑うな」
「だって、かわいい」
「俺は真剣だ」
「うん。ごめん」
私は脹相の手をぎゅっと握った。
「でも、大丈夫だよ」
「……何がだ」
「私が好きなのは脹相だから」
脹相が黙る。
耳が少し赤くなっていく。
「……そういうことを、簡単に言うな」
「なんで?」
「……余計に離したくなくなる」
「じゃあ、離さなければいいじゃん」
私は笑って、握った手にもう一度力を込めた。
「一緒に帰ろ?」
「……ああ」
今度こそ、脹相は少しだけ笑った。
「……乙骨め」
誰にも聞こえないよう、小さく呟く。
洗濯物を畳んでいた脹相は、例のタオルを見つけると、しばらく無言で眺めていた。