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死毒に彩なす

第3章 知らぬが花



「…………」

飾らぬシキの言葉に深い意味などないはずだ。
けれど、このとき返した沈黙は常のように意図したものではなかった。

共有するのではなく、与えてやることを善とする――成恢には、そういった情緒の類に一切の覚えがない。

美味いものを食べたから誰かにも食わせてやりたい、などと思ったことは生まれてこの方一度もない。
食事は、単に身体を動かすためだけに摂取する栄養素に過ぎなかった。
それ以上の意味など、研究に費やす貴重な時間を削ってまで考える価値があるとは思えなかったのだ。

ましてや、シキ自身が味を感じられないのであれば尚更である。
自分では味わえないものを、自分が楽しむためではなく――ただ、成恢に食べてもらうために。

それが万が一、彼の喜びの一端になればいい、などと。

「……シキ、お前にも他人を労わる気持ちがあったとはな」
「成恢さまだからですよ」
「……よくもそのようなことを恥ずかしげもなく言えるものだ」

成恢の皮肉は、ともすれば口説き文句にも取られかねない言葉を平然と宣ったシキに対するものだ。
同時に、成恢以外の人間はどうでもいい――そう言い切っていることと相違ない、危ういほどに偏った実態を恥とも思わぬことへの遠回しな揶揄でもあった。

何とも奇妙なものだ、と成恢は思う。

シキは、時折こういうことを平然と行う。
研究の邪魔をするわけでもなく、何かを要求するわけでもなく――――ただ自分が成恢にとって役に立つと思ったことや、自分が成恢にしてやりたいと思ったことを何の躊躇いもなく差し出してくる。

それを受け取ったところで、成恢が何かを返してやったこともなければ、返すつもりもないというのに……。
それなのに、こちらの反応だけを期待するような顔をしている。

己が何を欲するのかよりも、成恢が何を望むのかを優先する有様は清々しくもあり、歪んでもいた。

その歪みを感じ取ると胸の奥が疼くような、どこか落ち着かぬ心地を覚える。


反面、こうも思うのだ。

――――ならば、この女は俺の望みのためにどこまで使えるのか、と。
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