第2章 入学式
ここで立ち尽くしていても何も始まらない。
一度、図書館で調べてみましょうという学園長先生の提案に従って、私たちは連れ立って鏡の間を後にすることとなった。
こちらですよ、さあ早くと私に告げた後、前代未聞の事態をぶつぶつと嘆きながら足早に進んでいく学園長先生に小走りで付いていく。
ふと、出入口に差し掛かったところで立ち止まってしまったのは、半ば無意識だった。
ゆっくりと、一度だけ鏡の間を見渡すように振り返る。
この仕草や視線にいくら未練を滲ませたって、何の意味もない。
私の後ろ髪を引く原因は、この世界にとっての『無』――。
どこにも、何も、ここにはない。それなのに……。
部屋の中央に浮かぶ闇の鏡が――ただ黒く澄んだ鏡面が、迷子同然の私の姿を映し出している。
……なのに。どうしてだろう。
そこにはもう不気味な相貌は浮かんでいないはずなのに、ただ普通の鏡に姿を映し出されているのと変わらないはずなのに……何故だか"見つめられている"ような気がしてならなかった。
きっと、募る不安が、何でもないことすらも過敏に感じさせてしまうせいだ。
胸の奥が、ざわつく。
廊下の向こうから「君、何をしているんです?早くしてください」と、私を呼ぶ学園長先生の声が聞こえてくる。
陥った錯覚から我に返り、「はぁいっ」と慌てて返事をしながら身を翻した。
闇の鏡から身体ごと視線を外すように。錯覚を振り切るように。
そうして私は、今度こそ鏡の間を出て、学園長先生の元へと走っていった。
――――暗闇を広げた鏡面に浮かぶ自分の後ろ姿が小さく、遠く、鏡の奥へと溶けていく。
まるで深い闇の中へ、自ら足を踏み入れていくように。