第75章 とにかく帰ろう
「……なんか、変な感じ」
「何がだ?」
「だって……」
私は脹相を見る。
「ずっと好きだった人と、今こうして両想いになったんだなって」
言葉にしてみると、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……俺も、まだ実感がない」
「脹相でもそうなんだ」
「ああ」
少しだけ照れたように目を逸らす脹相を見て、私はまた笑った。
本当ならもう少し、この時間を味わっていたい。
ずっと言えなかったこと
ずっと勘違いしていたことを全部話したい。
どうして好きになったのか、
いつから好きだったのか、
どうして今まで言ってくれなかったのか、
聞きたいことが、たくさんある。
「ねえ、脹相」
「なんだ?」
「もう少しだけ、ここにいてもいい?」
「ああ」
脹相は頷いた。
「俺も、お前と話したい」
その言葉に、私は嬉しくなった。
けれど。
「……」
脹相の視線が私の顔に落ちる。
「どうかした?」
「いや……」
脹相は眉を寄せた。
「やはり顔色が悪い」
「大丈夫だよ」
「大丈夫ではない」
「でも……」
「何日眠っていない?」
「……」
答えられない。
「お前」
「……ごめん」
「謝るな」
脹相はため息をついた。
「話は帰ってからでもできる」
「でも、せっかく……」
「せっかく?」
「……両想いになれたから」
その言葉に、脹相が一瞬黙る。
耳が少し赤くなった。
「……それは」
「うん?」
「嬉しい」
小さな声だった。
「だからこそ、今日は休め」
「……」
「ここ数日、まともに眠っていないんだろう」
「……うん」
「なら、なおさらだ」
私は少しだけ唇を尖らせる。
「もう少し余韻に浸りたい……」
「家で浸ればいい」
「でも」
「帰るぞ」
「えぇ……」
「体調を崩してからでは遅い」
そう言うと。
脹相は私の前に屈んだ。