第73章 告白しなかったせいで
「そういえばさ」
何気ない会話の途中だった。
私はふと思い出したように、脹相を見る。
「脹相って、好きな人いるって言ってたよね?」
「……ああ」
脹相の手が止まる。
「最近、その人とどうなの?」
何でもないことのように聞いたつもりだったけれど、
脹相は少しだけ考えてから答えた。
「……結構、いい感じだと思う」
「……そっか」
胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。
けれど私は笑った。
「よかったじゃん」
「……?」
「好きな人といい感じなら、よかったね」
「ああ……」
脹相は頷いた。
私はそれ以上、何も聞かなかった。
聞けなかった。
その夜、一人になってから、私はベッドの中でぼんやり天井を見つめていた。
――結構、いい感じ。
その言葉が頭から離れない。
考えてみれば、私は今まで、脹相に甘えすぎていた。
一緒に暮らしていて、朝も夜も顔を合わせる。
学校まで迎えに来てもらって、休日だって一緒に過ごして、
任務のときだって一緒にいる。
疲れていれば甘えて、眠れないときは隣にいてもらって、何かあれば脹相を頼って…それを当たり前みたいにしていた。
でも脹相には、脹相の時間がある。
脹相には好きな人がいる。
その人と、今は「結構いい感じ」らしい。
「……私、甘えすぎてたな」
ぽつりと呟く。
今まで、脹相が優しいから、一緒にいてくれるから
頼れば応えてくれるから。
自分もいていいのだと思っていた。
でも、それは違った。
脹相が断らないからといって、ずっと自分のために時間を使っていいわけじゃない。
「……邪魔してたかも」
そう思った瞬間、急に恥ずかしくなった。
今までの自分の行動が。
「一緒にいて」
「隣にいて」
「迎えに来て」
「一緒に寝よう」
そんなことばかり言っていた気がする。
「……やめよう」
明日から、ちゃんとしよう。
せめて嫌われないように。そう思った。