第72章 大変だった
「急にどうしたの?」
「急ではない」
脹相は静かに答える。
「ずっと考えていた」
「でも、昨日までは『まだ言わない』って感じだったじゃん」
「ああ」
「何か変わった?」
脹相は少し黙る。
「……昨日、あいつに言われた」
「好きだって?」
「ああ」
その一言を口にすると、脹相の表情が僅かに緩む。
「本人は覚えていないが」
「うん」
脹相は胸元に手を置く。
「俺はもう、待つだけではいられないと思った」
五条は黙って聞いている。
「今まで俺は、どうすればあいつに好意が伝わるかばかり考えていた」
「うん」
「行動で示せば伝わると思った」
「うん」
「だが……」
脹相は少し苦笑した。
「昨日のあいつを見て、分からなくなった」
「何が?」
「俺がいくら大切にしても」
一度、言葉を切る。
「それだけでは、あいつは自分が好かれているとは思わないらしい」
五条が小さく笑う。
「まあ、あの子だからね」
「ああ」
「かなり鈍いからね」
「ああ」
「二回言った」
「事実だ」
五条が笑う。
けれど脹相は、真剣なままだった。