第71章 誕生日パーティー
外に出ると、夜風が頬に当たった。
「寒いか?」
「ちょっと」
「上着を着ろ」
「脹相の?」
「お前のだ」
「……脹相のがいい」
「なぜだ」
「脹相のほうがあったかいから」
「……」
脹相は何も言わず、自分の上着を私の肩に掛けた。
「これでいいか?」
「うん」
私は上着に顔を埋める。
「脹相の匂いする」
「……そうか」
脹相の耳が赤くなる。
「帰るぞ」
「うん」
今度こそ歩き出す。
けれどしばらくすると、私はまた足を止めた。
「……脹相」
「なんだ」
「疲れた」
「……」
脹相は空を見上げた。
そして観念したように、私の前に背を向けてしゃがみこんだ。
「乗れ」
「え?」
「おぶっていく」
「いいの?」
「ああ」
私は嬉しそうに笑って、素直に脹相の背中に乗った。
腕を首に回し、脹相が立ち上がると、身体がふわりと持ち上がった。
「……高い」
「そうか」
「楽」
「ならよかった」
そのまま歩き始める。
しばらくすると、私は脹相の肩に頬を乗せた。
「……ん?」
「どうした?」
私は何かを確かめるように、脹相の首元へ顔を寄せる。
そして、すん、と小さく息を吸った。
「……脹相の匂いする」
「……当たり前だ」
「ふふ」
また、すん、と嗅ぐ。
「おい」
「いい匂い」
「……そうか?」
「うん」
もう一度。
今度はさっきより近く。
首元に顔を埋めるようにして、深く息を吸う。
「……落ち着く」
脹相の足が、ほんの少しだけ止まりかけた。
「……お前」
「んー?」
「近い」
「だめ?」
「……いや」
脹相は前を向き直る。
「構わない」
私は満足そうにして、さらに身体を預けた。
頬が首筋に触れる。
その拍子に、顔を動かした私の唇が、ほんの一瞬だけ脹相の首元に触れた。
「……」
脹相が完全に固まる。
「どうしたの?」
「……いや」
「脹相、顔赤い?」
「気のせいだ」
「ふーん」
私は気にする様子もなく、また首元に顔を埋める。
「……やっぱり脹相の匂い好き」
「……そうか」
声が少し低くなった。
「ずっとこうしてたい」
脹相は答えなかった。
ただ、私が落ちないように支える腕に、少しだけ力を込める。
しばらくして、私は安心したように目を閉じた。