第69章 誕生日
その後。
「水族館も行きたいって言ってただろう」
「……覚えてたの?」
「ああ」
水族館では、私が水槽の前で立ち止まるたび、脹相も隣で立ち止まった。
「見て、あれ綺麗。クラゲってずっと見てられるね」
「そうだな」
私が楽しそうに話すたび、脹相は静かに聞いている。
水槽の青い光に照らされた横顔が、少しだけ柔らかく見えた。
「脹相」
「なんだ?」
「楽しい?」
「……ああ」
「本当に?」
「お前が楽しそうだからな」
まただ。そういうことを、さらっと言う。
水族館を出た後は、私が以前話していたカフェへ向かった。
「……ここ?」
「ああ」
「え、でも」
「新作が飲みたいと言っていただろう」
「覚えてたんだ……」
脹相が少しだけ呆れたように言う。
「お前は、俺が忘れると思っているのか?」
私は何も言えなくなった。
フラペチーノを受け取って、一口飲む。
「美味しい!」
「そうか」
「脹相も飲む?」
「……いいのか?」
「うん」
差し出すと、脹相は少し迷ってから一口飲んだ。
「……甘いな」
「でしょ?」
私は笑う。
その顔を見て、脹相もほんの少し笑った。
そして、店を出たところで、脹相が突然立ち止まった。
「……少し寄るところがある」
「どこ?」
連れて行かれたのは、アクセサリーショップだった。
「え?」
「……これ」
差し出された小さな箱。
開けると、中にはネックレスが入っていた。
見覚えがある。
「……これ」
以前、欲しいと言っていたもの。
ペアのネックレス。
けれど。
「これ、ペアじゃ……」
「ああ」
「……でも、私、買えないって言ったよね」
「知っている」
「ペアだから、片方余っちゃうし」
「だから二つ買った」
「……え?」
脹相は自分の首元を指す。
そこには、同じネックレスがあった。
「……俺も使う」
「脹相が?」
「ああ」
「でも、ペアだよ?」
「だからいい」
あまりにも迷いのない返事で、私はネックレスと脹相の顔を交互に見た。
「……ありがとう」
「付けてやる」
背後に回った脹相の指が、首元に触れ、私は少しだけ緊張した。
「……似合っている」
「そう?」
「ああ」
「脹相も」
「……そうか」
二人の胸元で、同じネックレスが小さく揺れた。