第66章 白無垢のモデル
撮影はそのまま順調に進んでいく。
そして最後の数枚、カメラマンが少し考えていた。
「では、最後に少しだけ雰囲気を変えてみましょう」
「はい」
「好きな人が隣にいるイメージで」
「……」
私は一瞬だけ固まった。
「好きな人……」
「はい」
カメラマンが笑う。
「その人を見て、嬉しくて仕方ない、という感じで」
「……」
私はどうすればいいのか分からなくなる。
「難しいですか?」
「ちょっと……」
「大丈夫ですよ。誰か一人思い浮かべるだけで」
「……」
一人。頭に浮かぶのは決まっている。
「……」
脹相。
頭の中にその顔が浮かんだ瞬間。
表情が変わった。
ほんの少し。
口元が緩み、目が柔らかくなる。
そして誰かを見つめるような優しい笑顔。
「……」
スタジオの空気が。
一瞬。
止まったようになった。
カメラマンが思わずシャッターを切る。
カシャ。
「……!」
スタッフが。
小さく息を呑む。
「……すごい」
「……」
五条も。
目を見開いた。
そして脹相を見る。
「……」
脹相は完全に固まっていた。
彼女が誰を思い浮かべたのか、言われなくても分かってしまった。
その表情は、いつも自分に向けられるものと。
あまりにもよく似ていた。
「……」
脹相は息をすることさえ忘れそうになる。