第62章 脹相が私を気にし始めた
――やはり。
――俺のことを好きなのかもしれない。
でも。
本人は何も気づいていない。
それどころか。
「脹相って、ほんといいお兄ちゃんみたい」
「……」
その言葉に。
脹相の表情が固まる。
「……兄?」
「うん。頼りになるし」
「……そうか」
「なんか安心する」
「……そうか」
私は嬉しそうに頷く。
脹相は少しだけ視線を逸らした。
――兄。
まさか。
そこなのか。
自分だけが勝手に恋愛として意識しているのではないか。
そんな不安が一瞬よぎる。
けれど。
あなたはすぐに脹相の腕に軽く寄りかかった。
「でも、脹相が彼氏って設定なのは結構気に入ってる」
「……!」
「面倒な人に声かけられなくなるし」
「……そうか」
「それに、脹相なら安心できるから」
「……ああ」
脹相は、それ以上聞かなかった。
聞けば。
自分が期待していることが露見しそうだった。
「じゃあ帰ろ」
「ああ」
二人で歩き出す。
あなたは何も知らない。
自分が脹相の胸をどれほど騒がせているのか。
そして。
脹相が今。
「彼女が俺を本気で好きかもしれない」
という可能性を、密かに大切にしていることも。
「ねえ、脹相」
「なんだ?」
「明日も一緒に帰ろうね」
「……ああ」
「約束」
あなたが小指を差し出す。
脹相は一瞬それを見る。
そして。
その小指に自分の小指を絡めた。
「約束だ」
「ふふ」
私は満足そうに笑う。
脹相はその横顔を見つめる。
――やっぱり。
期待してしまう。
けれど。
それを本人に確かめることはしない。
今はまだ。
この距離でいい。
あなたが何も知らないまま。
自分の隣で笑っていてくれるなら。
それだけでいい。
……少なくとも。
脹相は、そう思うことにしていた。