第59章 花火大会
そして花火大会当日。
夕方。
私は五条家で浴衣に着替えだ私は、高専にいた。
「どう?」
「おお」
五条が振り返る。
「いいじゃん」
「本当?」
「うん。なんか妙に品がある」
「妙にって何」
「五条家で昔から着物着てたからねぇ。着慣れてる感じがすごい」
「まあ……何度も着てるから」
帯を整え、袖を軽く直す。
歩く時の歩幅。
座る時の仕草。
袖の扱い。
帯を崩さない立ち方。
そういうものが自然と身体に染みついている。
五条が鏡越しに私を見る。
「……いつもより大人っぽいね」
「そう?」
「うん」
そして少し笑う。
「思ったより色っぽく仕上がったねぇ」
「五条さん」
「はい?」
「そういう言い方すると怒るよ」
「はいはい」
そこへ。
廊下から脹相がやってきた。
「五条」
「ん?」
「出かける前に――」
そこで。
脹相の声が止まった。
「……脹相?」
私が振り返る。
「どう?」
「……」
脹相はしばらく何も言わなかった。
「似合っている」
やっと出てきた言葉は、それだけ。
「ありがとう」
私が笑う。
その瞬間、脹相はまた黙った。
浴衣が似合っている。
それだけではない。
立ち姿も。
歩き方も。
仕草も。
いつもよりずっと大人びて見える。
「……その格好で、花火大会へ行くのか?」
「うん」
「男もいるのだろう?」
「いるよ。でもみんな友達」
「……そうか」
脹相は納得したように頷いた。
けれど。
どこか落ち着かない。
「大丈夫だよ」
私は笑う。
「花火が始まる前には帰ってくるから」
「……そうか」
「うん」
少し迷ってから。
私は脹相に近づいた。