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①呪術廻戦〜脹相〜

第57章 初めては大体五条さん


しばらく歩いて。

私は、ふと口を開いた。

「……そういえば」

「ん?」

二人がこちらを見る。

「私、誰とも付き合ったことないんだよね」

「……え?」

脹相が、わずかに目を見開いた。

「恋人とか。そういう意味で」

「……誰とも?」

「うん」

「一度も?」

「うん。一度もない」

脹相が黙り込む。

五条は少しだけ目を丸くしてから、

「あー……そうだったねぇ」

と、どこか納得したように頷いた。

「五条さん、知ってたでしょ」

「まあね」

「じゃあ、なんでそんな反応するの?」

「いやぁ、改めて本人から聞くとね?」

五条は、意味ありげに笑う。

「……何?」

「なんでもないよ」

脹相は、しばらく何かを考えていた。

そして。

「……恋人になったことが、ないのか」

「うん」

「そうか」

それだけ。

けれど。

なぜか耳が、少し赤い。

「脹相、顔赤くない?」

「赤くない」

「赤いよ」

「気のせいだ」

そのやり取りを見ていた五条が、吹き出す。

「ふふっ」

「五条さん?」

「いやぁ……」

五条は楽しそうに二人を見る。

「そういうことなら、なおさらこれからだねぇ」

「……これから?」

「うん」

五条は前を向く。

「初めての『おはよう』も」

「……」

「初めての『ただいま』も」

「……」

「初めて誰かに頼ることを覚えたのも」

「先生……」

「初めて一人で眠れた夜も」

「……」

「そういうのは、僕との時間だった」

五条は少しだけ笑う。

「でも、恋人として誰かと過ごすのは、まだなんでしょ?」

「……うん」

「じゃあ、それは君が自分で選ぶ初めてだ」

その言葉に。

私は、少しだけ考える。

今まで。

私はたくさんの「初めて」を五条と過ごしてきた。

けれど。

恋人として誰かと手を繋いだことも。

誰かに好きだと言ったことも。

誰かから好きだと言われたことも。

まだ、何も知らない。

それはきっと。

これから自分で選んでいくものなのだ。

そう思った。

ふと。

隣を見る。

脹相が、こちらを見ていた。

昨日と同じように。

どこかためらうような手が、私の近くにある。

触れそうで。

触れない。

私は、その手を見つめる。

そして。

今度は。

自分から、その手を握った。
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