第57章 初めては大体五条さん
「俺は」
「うん?」
「初めてでなくてもいい」
「…………」
「五条がお前の初めてを、いくつ持っていても」
脹相の声は静かだった。
「それを羨んでも、仕方がない」
「……」
「俺が知ることのできなかった時間だ」
少しだけ視線を落とす。
「だから」
脹相は、まっすぐ私を見る。
「これから先のことまで、俺に譲ってほしいとは思わない」
「……」
「お前が誰と過ごすかは、お前が決めればいい」
その言葉に。
なぜか胸が、少しだけ痛んだ。
「ただ……」
脹相の手が、私の手の近くまで動く。
けれど。
触れる直前で、止まった。
「俺にも、お前のこれからを知る時間があればいいと思っている」
「……脹相」
「初めてじゃなくていい」
脹相は、まっすぐ私を見る。
「一番でなくてもいい」
「……」
「ただ」
少しだけ、言葉に迷うように。
「いつか、お前が帰りたいと思った場所に……俺がいればいい」
「…………」
「それだけだ」
それ以上は、何も言わなかった。
触れそうだった手も、ゆっくりと下ろされる。
私は何も答えられない。
答えを求められているわけでもないのに。
なぜか、すぐには言葉が出てこなかった。