第53章 禪院家からお見合いの話が来てたの知らなかった
高専の教室へ戻ると、脹相が一人、窓際の席に座っていた。
「……おかえり」
顔を上げた脹相が、私を見る。
「ただいま」
いつも通りに返したつもりだった。
けれど、脹相はすぐに眉を寄せた。
「どうした?」
「え?」
「頬が赤い」
そう言われて、思わず頬に手を当てる。
「……ああ」
まだ少し熱が残っている気がする。
「直哉さんに、掴まれたの」
「禪院直哉に?」
脹相の声が、わずかに低くなる。
「うん。禪院家のお見合いを断ったことを聞いたみたいで」
私はさっきのことを簡単に話した。
「せっかく今は顔もスタイルもいいんだから、貰い手があるうちに家に入ったほうがいいって。歳を取ったら相手にされなくなるって言われて……」
「……そうか」
脹相の表情が険しくなる。
「それで、私が自分の納得した相手とじゃないと結婚しないって言ったら、生意気だって頬を掴まれた」
「……あいつは」
低く呟いた脹相に、私は苦笑する。
「でも、真希さんが助けてくれたから大丈夫」
「そうか。それならよかった」
脹相は少しだけ安心したように息を吐いた。
けれど、胸の奥に残った不安は消えなかった。