第52章 役目の交代
「……」
脹相が私を見る。
「お前」
「ん?」
「昔は、あいつに抱きしめられていたのか」
「うん」
「…………」
また眉間に皺が寄る。
五条がすぐに気づいた。
「おや?」
「何だ」
「やっぱり気になる?」
「……」
「僕が昔、抱きしめてたこと」
「……」
「いやぁ」
五条は楽しそうに笑う。
「これは僕の勝ちかな?」
「何の勝負だ」
「保護者歴」
「…………」
「僕のほうが圧倒的に長いよ?」
「……だから何だ」
「さあ?」
五条は肩をすくめる。
そして。
脹相が何か言い返そうとしたとき。
五条はふと。
「あ」
と声を漏らした。
「でも」
「?」
「今はもう、僕じゃなくてもいいんだよね」
そう言って。
脹相を見る。
ほんの一瞬だけ。
意味ありげな目。
「……」
脹相は黙った。
五条はそれ以上何も言わない。
ただ。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」
と玄関へ向かう。
「五条さん」
私が呼び止める。
「ん?」
「今日はありがとう」
「……うん」
五条は笑った。
けれど。
靴を履きながら。
ほんの少しだけ。
肩を落としていた。
――昔は。
自分が抱きしめれば、素直に腕の中へ来てくれた。
頭を撫でれば笑ってくれた。
それが当たり前だった。
今はもう。
「もう子供じゃないから」
そう言われる。
当たり前のことなのに。
保護者としては嬉しいはずなのに。
少しだけ。
寂しい。
「……大きくなったなぁ」
誰にも聞こえないように呟く。