第50章 泥酔
数時間前。
「脹相さぁ」
五条がグラスを傾けながら言った。
「腹割って話そうよ~」
「……何をだ」
「いろいろ」
「お前とは話すことなどない」
「そんなこと言わずにさぁ」
五条は笑って、脹相のグラスに酒を注ぐ。
「ほら」
「俺は酒に強い」
「へえ」
「これくらいでは酔わん」
「じゃあ、もう一杯」
「……」
「もう一杯」
「……」
「もう一杯」
「五条」
「なに?」
「お前、俺に何を聞きたい」
五条は笑った。
「やっとそこに気づいた?」
「最初から分かっていた」
「さすが」
五条は自分のグラスを見る。
ほとんど減っていない。
下戸なのだ。
飲めない。
だからこそ。
脹相が酔っていくのを見ながら、五条は慎重に言葉を選んだ。
「彼女のこと、どう思ってる?」
「…………」
脹相が黙る。
「保護者として聞いてるだけだから」
「……」
「変な意味じゃないよ」
脹相はしばらく黙った。
そして。
「……大切だ」
「うん」
「俺にとって……あいつは、大切な存在だ」
「うん」
「帰る場所だ」
五条の目が、少しだけ細くなる。
「帰る場所?」
「ああ」
脹相は酔いで少しぼんやりした目をしながら。
それでも真剣に言う。
「……あいつがいるところに帰りたい」
五条は黙った。
「……そっか」
「五条」
「ん?」
「お前は……俺を疑っているのか」
「ちょっとだけね」
「なぜ」
「保護者だから」
脹相は少し考えたあと。
「……なら、安心しろ」
「何を?」
「俺は、あいつを傷つけるつもりはない」
五条は笑った。
「うん」
「……守りたい」
「うん」
「できるなら……ずっと一緒にいたい」
そこで。
五条は初めて。
心から安心した。
「……そっか」
小さく笑う。
「なら、まあ……いいかな」
「何がだ」
「なんでもない」
五条は立ち上がる。
その瞬間。
脹相がふらりと身体を傾けた。
「おっと」
「……」
「飲ませすぎたかな」
自分で言っておいて。
五条は少し反省する。
「まあ、本人の口から聞けたし。いっか」
そして。
脹相を担いだ。