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①呪術廻戦〜脹相〜

第38章 断らなくてよかった


「……」

胸の奥が、締め付けられる。

そんな未来にならなくてよかった。

自分が引き受けてよかった。

「……脹相?」

「……何だ」

「なんか、怖い顔してる」

「……すまない」

脹相は少しだけ俯いた。

「その……」

言葉を選ぶ。

「俺が引き受けてよかった」

「え?」

「……本当に」

私は驚いて目を丸くする。

「そんなに?」

「ああ」

即答だった。

「もし俺が断っていたら、お前は別の誰かに頼んでいたんだろう?」

「うん。たぶん」

「……そうか」

脹相は目を伏せる。

そして、小さく息を吐いた。

「……よかった」

「何が?」

「俺が断らなくて」

その声は、いつもよりずっと素直だった。

彼女は少し驚く。

「そんなに恋人のふりするの嫌だったの?」

「違う」

俺は首を横に振る。

「むしろ……逆だ」

「逆?」

「お前が他の誰かと恋人のふりをすることを考えたら……」

そこで言葉が止まる。

「……嫌だった」

あなたは黙った。

脹相も黙る。

しばらくして。

「……ごめん」

あなたが小さく言う。

「どうして謝る?」

「なんか、脹相に嫌な想像させちゃったかなって。なんか辛そう?」

「お前が謝ることではない」

「でも……」

「ただ」

脹相はあなたを見る。

「俺は、お前に頼られたことが嬉しかった」

「……」

「恋人のふりでも」

その言葉に、私の胸が少しだけ温かくなる。

「……私も、脹相に頼んでよかったと思ってるよ」

「……本当か?」

「うん」

彼女は笑った。

「他の人だったら、たぶんあんなに安心できなかった」

「……」

脹相の胸が大きく鳴る。

「それに」

彼女は少し照れながら続ける。

「脹相だったから、あの日も嫌じゃなかった」

「……あの日?」

「……キスのふりしたとき」

「…………」

脹相が固まる。

「あ…えっと。忘れて」

「無理だ」

「即答しないでよ……」

彼女が恥ずかしそうに俯く。

脹相も顔を逸らす。

「……俺も」

「え?」

「お前だったから、嫌ではなかった」

「……」

二人とも黙ってしまってテレビの音だけが静かに流れている。

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