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①呪術廻戦〜脹相〜

第38章 断らなくてよかった


ある日夕食の片付けを終えたあと。

俺と〇〇はは、いつものようにリビングでソファとその下に座っていた。

テレビがついているものの、二人ともあまり内容を見ていない。

ふと、彼女が思い出したように口を開いた。

「そういえばさ」

「なんだ?」

「この前、恋人のふりをお願いしたでしょ?」

「……ああ」

その言葉だけで、脹相は少しだけ姿勢を正した。

あの日のことは、まだ鮮明に覚えている。

手を繋いだこと。

あなたの隣に立ったこと。

そして――

キスをするふりをして、寸前で止めたこと。

思い出しただけで、少し耳が熱くなる。

「それでね」

〇〇は何でもないことのように続けた。

「実は、脹相がOKしてくれなかったら……」

「……」

「他の人に頼もうと思ってたんだ」

「…………」

脹相の思考が止まった。

「……他の人?」

「うん」

「……男か?」

「そりゃきっとたぶん」

「…………」

一瞬。

脹相の胸に、冷たいものが落ちた。

もし。

あの日、自分が断っていたら。

あなたは別の誰かに「恋人のふりをして」と頼んでいた。

その人と手を繋いで。

隣を歩いて。

もしかしたら――

あのときと同じように、キスをするふりまで。
ふりですらなかったら…

「……」

脹相の顔から、わずかに血の気が引いた。

「脹相?」

「……いや」

「どうしたの?」

「……何でもない」

声が低い。

けれど、彼女には分からない。

脹相の頭の中では、別の男が〇〇の隣にいる光景が浮かんでいた。

その男が彼女の手を取って。

彼女が笑って。

「恋人です」と言って。

――嫌だ。

その瞬間、脹相ははっきりと思った。

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