第37章 寸止めの代償
帰宅してから、脹相はずっと静かだった。
「ただいま」と言って家に入り、靴を脱ぐ。
私はも隣で「疲れたね」と笑いかけた。
「……ああ」
いつもと変わらない返事。
けれど。
脹相の頭の中は、帰宅してからずっと同じ場面を繰り返していた。
――唇が触れる寸前。
あの瞬間。
「…………」
脹相はキッチンで立ち止まった。
思い出してしまった。
〇〇の顔。
驚いたように見開かれた目。
赤く染まった頬。
そして――
ほんの少しだけ、物欲しそうに揺れた瞳。
「……っ」
脹相は慌てて顔を覆った。
「……何を考えているんだ、俺は」
忘れろ。
あれは演技だった。
相手に恋人だと信じさせるため。
ただそれだけだ。
なのに。