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①呪術廻戦〜脹相〜

第36章 恋人のふり



「…………」

「…………」

二人とも真っ赤だった。

「……脹相」

「……なんだ」

「今の……」

「ああ」

「本当にキスするのかと思った」

「……俺もだ」

「え?」

脹相は少し目を伏せた。

「正直に言うと……かなり緊張していた」

「……」

「お前が嫌がっているかもしれないと思ったから、触れるつもりはなかった」

「……そうだったんだ」

「ああ」

脹相は真剣な顔であなたを見る。

「恋人のふりを頼まれたからといって、俺が勝手に触れていいわけではない」

その言葉に、胸が温かくなる。

「……ありがとう」

「何がだ?」

「ちゃんと私のこと考えてくれて」

「当然だ」

脹相は少しだけ照れたように目を逸らした。

「……お前は大切だからな」

「……」

その言葉が、胸の奥に残る。

恋人のふり。

最初はただ、誰かを諦めさせるためのものだった。

手を繋ぐのも。

隣を歩くのも。

恋人らしく振る舞うのも。

全部、演技のはずだった。

なのに。

さっき、唇が触れそうになった瞬間。

私は少しだけ――

残念だと思ってしまった。

「……ねえ、脹相」

「なんだ」

「今日……ありがとう」

「ああ」

「……また、恋人のふりをお願いしてもいい?」

脹相は一瞬だけ目を見開く。

そして。

「……いつでも頼ってくれ」

穏やかに笑った。

「恋人のふりでもな」

「……」

なぜだろう。

その言葉が、少しだけ寂しく聞こえた。

あなたは繋いでいた手の温度を思い出す。

脹相もまた。

寸前で止めた唇の距離を、忘れられずにいた。

二人ともまだ知らない。

「ふり」から始まった関係が。

いつか本物になるかもしれないことを。
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