第35章 怖い映画
「……」
近い。
普段なら同じ家で暮らしていても、こんな距離で横になることはない。
「……脹相」
「なんだ」
「もう少し近くにいてもいい?」
「……ああ」
あなたが少しだけ身体を寄せる。
肩が触れる。
脹相の身体がわずかに強張った。
「……」
「脹相?」
「大丈夫だ」
「怖くない?」
「俺は怖くない」
「そうじゃなくて……」
あなたが小さく笑う。
「私が隣にいても平気?」
「……」
脹相はしばらく黙った。
「……平気ではない」
「え?」
「意識してしまう」
「……」
「だが」
脹相はあなたに背を向けず、まっすぐ見つめる。
「お前が怖がっているなら、俺はここにいる」
「……ありがとう」
その言葉と一緒に、あなたが脹相の服の裾をつまむ。
「……これ、掴んでてもいい?」
「好きにしろ」
「じゃあ……」
ぎゅっ。
あなたの指が、脹相の服を握る。
「……安心する」
「そうか」
「脹相って温かいね」
「……そうか?」
「うん」
あなたは少しずつ目を閉じていく。
「……おやすみ」
「……ああ」
やがて、あなたの呼吸がゆっくりになる。
眠ったらしい。
脹相は隣でじっと天井を見つめていた。
眠れない。
理由は簡単だった。
「……」
隣に、好きな人がいる。
しかも自分の服を掴んだまま眠っている。
心臓が落ち着くはずがない。
それでも。
「……怖くない」
小さく呟く。
「俺がいるからな」
あなたには聞こえない。
脹相はそっと布団をあなたの肩まで掛け直す。
そして、少しだけ距離を縮めた。
「……おやすみ」
その夜。
あなたは一度も目を覚まさなかった。