第8章 間章『第三者の観測』後編
「つまり、この痕跡が被害者のものではないことは確認済みなのか」
「ああ」
湯川は、
机に並べられた資料を見ていた。
「成分分析は?」
「今、鑑識に回してる」
「なら結果が出てから検討した方が合理的だ」
「だから、それじゃ遅いんだって」
「何度も言うが、それは警察の都合だ」
「分かってるよ」
「分かっているなら──」
湯川が壁の時計を見る。
午後四時二十二分。
「…………」
草薙の言葉が止まる。
「…………」
内海も草薙を見る。
「見たな」
「見ましたね」
「何の話だ?」
「別に?」
「君たちはさっきから──」
「湯川」
「何だ?」
「あと八分」
「…………」
「何が?」
「いや?」
「…………」
湯川が資料へ視線を戻す。
午後四時二十八分。
廊下から足音が聞こえる。
「…………」
湯川の視線が扉へ向く。
その瞬間を内海は見逃さなかった。
「ふふ」
「内海君」
「何も言ってません」
「笑っただろう」
「気のせいです」
「そんなわけが──」
こんこん、とノックが鳴る。
「失礼します」
扉が開いた。
「先生」
星宮が顔を覗かせる。
「お疲れさまです」
「ああ」
湯川が時計を見る。
午後四時三十一分。
「一分遅い」
「片付けに手間取ったんです」
「四時半と言っただろう」
「一分くらい誤差です」
「君は以前も七分を誤差と言ったな」
「覚えてるんですか、それ」
「事実だろう」
「先生、そういうどうでもいいことばっかり覚えてますよね」
「君が忘れすぎなんだ」
「失礼な」
「…………」
草薙がゆっくり内海を見る。
「七分」
小さな声だった。