第2章 『泡沫の君に永遠の青を』 五条悟
「はあ? 呪詛師の討伐〜? なんで俺らがわざわざそんな田舎の島まで行かなきゃなんねーの?」
高専の教室。
椅子に深々と腰掛け、行儀悪く足を机に乗せた五条は心底だるそうに天を仰いだ。
丸いサングラスの奥で、蒼い瞳が退屈そうに揺れている。
教壇に立つ夜蛾は眉間に深いシワを刻んで拳を握りしめた。
「悟、態度を改めろ。……今回の件は少々特殊だ。とある離島で、一人の人間を殺害した疑いのある女の呪詛師だ。さらにその女は、それだけに留まらず島全体に強力な呪いを振りまき、甚大な被害を出している」
「へぇ……島一つ丸ごと呪うなんて、なかなか骨のある奴じゃないか」
隣で肘を突き、静かに資料をめくっていた夏油は薄い笑みを浮かべた。
「そう笑い事でもないぞ、傑。島からは雷雨や暴風、植物の異常繁茂などの報告が入っている。すでに非術師の死傷者も多数出ている状態だ。一刻も早く現地へ飛び、即時解決せよ」
「……チェッ。海なんて行きたくねーんだけど。塩で髪パサパサになるし」
「文句を言わないの、悟」
立ち上がった夏油は、文句を垂れる五条の肩をぽんと叩いて宥めるように微笑んだ。
「特級である私たちが揃って指名された任務だ。相応の相手なんだろう。それに、島全体を揺るがすほどの呪術を扱うとなれば、放置しておけば被害はさらに広がる。気を引き締めて行こう」
「傑は真面目だねぇ〜。まあ、サクッと終わらせて美味しいご当地スイーツでも食べて帰るか」
「ふっ、それには賛成だな」
めんどくさそうに首を鳴らしながら立ち上がる五条と、穏やかに笑う夏油。
この時のふたりはまだ知らなかった。
自分たちがこれから向かう島で待ち受けているのが邪悪な呪詛師などではなく、ただ傷つき絶望の淵で歌い続ける『人魚の力』を持つ少女であることを——。