第1章 1. 始まり
シオンが「調査兵団」について調べるにあたって、その組織に対しての民衆の評価を嫌というほど見てきた。
どんなものかというと、主に「わざわざ危険な壁の外に赴き、自ら死にに行く変態が集まる集団」という感じ。
多少の違いはあるものの、「調査兵団」への風当たりはこのように一貫して最悪だった。
逆にその見事なまでの逆風っぷりは、そこが物語の中心だと確信させる証拠にもなったのだけれど。
とにかく、
「私、調査兵団に入りたいんだ!」
などと言えば、
「お前、頭大丈夫か?」
と大半の人間は言ってくる。この少年もそうだ。
シアンは今日、少し奮発し地下街の酒場で食事を取っていた。地下街から出る前祝いだ。気分が乗っていたので、たまたま知り合った少年にも何故か奢っている。
「そりゃあそうだよねー、みんなそー言うよ」
あははは、と笑う。返す言葉もない。
少年の言う事は最もだ。調査兵団に入りたいというのは自殺志願者と大して変わらない。
それに、シアンには何か立派な言葉を返せるほどの志はない。
あるのは「漫画の世界を間近で味わいたい」という超邪な願いだけ。
「……お前みたいなクソガキは、巨人どもの餌になるだけだろうが。行くだけ時間と労力の無駄だ」
少年はこちらを睨む。……いやもしかしたらその顔が普通なのだろうか。人生損してるぞ、と心の中で呟く。
口も顔並みに悪いが、その節々に心配するような色が見え隠れしていた。
きっとこの黒髪の少年は、元はとても優しいのだろうなと考える。しかしこの地下街はどんな人間も埋もれていってしまうだろう。
「君だってまだまだガキの年齢でしょうが。まあ、頑張ってよ。私はそろそろ行くから」
「どの口が言ってんだ、クソガキが」
そうして、シアンはあっさりと地下街を去っていった。12年間ここで暮らしていたが、自分でもびっくりするほど思い入れがない。もうここに戻ってくることはないだろう、そう思いながら足早に少年と別れていった。