第13章 白露
玄関の鍵をあけ、家に入る。
いつも通りの静かさが寂しい。
昨晩まではこれが普通で、落ち着く空間だったのに。
もはや懐かしくも感じる。
「名前…」
つい、彼女の名前をつぶやく。
呼び捨てを許してくれた。
敬称を無くすだけでなぜこんなに満ち足りた気分になるのか…不思議だ。
名前を呼べば、あのふにゃふにゃの笑顔が頭に浮かぶ。
さっき別れたばかりだというのにもう会いたい。
素晴らしい時間だった。
まずはどれから思い出として愛でようか、と迷ってしまうくらいに幸せの連続だった。
場面場面を思い浮かべて、頭の中で繰り返し噛み締める。
彼女は不死川を好きではなかった。
俺が中々言い出せずにいるのを見て、メッセージアプリを勧めてくれて連絡先を教えてくれた。
彼女の優しさに胸がときめいた。
それに、俺の好物を作ってくれた。
手作りが良いという我儘に答えてくれて、今まで食べたどの鮭大根よりも美味しかった。
そういえば作っている最中に歌を口ずさんでいたな…
あれは多分、無意識だったんだろう。
上手いと伝えたかったが、言ったら歌うのをやめそうだったので敢えて触れなかった。
優しい声色だった。また聞きたい。
俺が眠そうにしていたら膝枕もしてくれたな…
いざしてもらったら眠気など吹っ飛び、寝たふりをして名前の太ももの柔らかさに全集中していたら、彼女が俺の顔を触ってきた。
その指遣いが意外にいやらしくて、少しだけ変な気分になってしまった。
離れていこうとする手を思わず掴んでしまって、いやらしい気分のままそこに口づけたら彼女の顔は真っ赤になって可愛かった。
太ももだけじゃなく唇も柔らかかった。
名前はどこもかしこも柔らかい。
抱きしめてもらった時も柔らかさを味わいたくて胸に顔を擦り付けてしまった。
さすがにこれは怒られたので渋々首筋に移動したら艶っぽい声をだした。
あれには驚いた
名前が本気で怒っていたからあれ以上できなかったが、また隙を見て首筋に触れてみたい…
………なんだか思い出したらまた変な気分になってきた
これはよろしくない。
考えるのをやめなければ。