第3章 水面
あの日から私は徒歩で通勤している。
もちろん竹刀先生との挨拶は続いており、自転車の時より話かけやすくなったので時々「今日も寒いですね」「お仕事頑張ってください」と一言付け加えるようになった。
竹刀先生は「あぁ...」と一言だけ返してくれる。
私の推し活は順風満帆だ。
とある日、いつものように学校前を通ると竹刀先生がいた。
推しに会えたことを神に感謝しつつ恒例の挨拶を...と顔を見た瞬間、私の思考は停止した。
「おっ.......」
「....?おはようございます」
竹刀先生は固まる私を見て、無表情だけど不思議そうに、ほんの少しだけ首を傾げた。
たまらん仕草である。
が、今はそれどころではない。
傷があるのだ。
私の推しの美しすぎるご尊顔に。
天然の芸術に、傷が...!!!!!
「ど、どどどどうしたんですかそれ」
「....それ、とは」
「ほっぺたの傷です!!」
「あぁ」
これか、と竹刀先生は頬の傷をさする。
「昨日、遅刻した生徒の指導をしていたら、」
「していたら?」
「同僚を怒らせ、三角定規を捌ききれなかった」
どういうこと??
竹刀先生が遅刻した生徒を指導したことしかわからんかった。
薄々感じてはいたけど、竹刀先生めっちゃ口下手だな。
かわいすぎるやろ!!!!!!
「指導中に、同僚の方が三角定規で殴ってきたってことですか?」
治安悪すぎない?
「いや...飛んできた」
「投げてきたってこと?!」
コクリ...と頷く竹刀先生。
小動物のような仕草に心臓を鷲掴みにされながらも竹刀先生の顔に傷をつけたどこぞの同僚に対する怒りがふつふつと沸いてくる。
情緒おかしなるて。
「その人はなぜ怒ったんです?」
「俺の力不足だ...」
あぁ、また拗らせモードに...!
この話題は避けよう。
確か、前に靴擦れした時に買った絆創膏が鞄に入れっぱなしだったはずだ。
鞄を漁り、絆創膏を探す。