第1章 LazyGirl
「あんたさ、紙タバコの匂い嫌いじゃん」
私がそう言いながら箱から一本取り出すと、
電子タバコを吸っているはずのこの元カレは、
ごく自然な動作で私の手元からそれを掠め取った。
自分はライターすら持っていない。
当たり前みたいに私のジッポを勝手にカチリと鳴らす。
「……部屋にヤニつくのウザいし、服とか髪にも匂いつくのダルい」
煙を天井に向けて雑に吐き出しながら、
彼はだるそうに言い放つ。
綺麗な横顔。整った指先。
でも口から吐き出される紫煙は、私の吸っている紙巻きタバコの匂い。
「じゃあ私の吸わなきゃいいじゃん。自分の電子タバコ吸えば?」
呆れて手を伸ばすと、彼は私の手首をパッと雑に掴んで、
そのまま自分の膝の上に引っ張り込んだ。
抵抗する暇もなく抱え込まれ、首筋にうっとうしく頭を乗せられる。
「……いや」
髪に顔をうずめたまま、ボソッと低い声が落ちてきた。
「お前のタバコなら、別にいい」
「意味分かんないんだけど」
「俺も分かんねぇよ。お前の匂いすんじゃん、これ」
タバコの苦い匂いと、彼の香水が混ざり合っている。
『タバコの匂い』が嫌いなはずの男が、
嫌いなはずの煙を肺いっぱいに満たしている。
その匂いで自分の呼吸を塗りつぶそうとしてるのだから、
本当に救いようがない。
それでも私のなかで彼は、タバコの匂いが嫌いなただの元カレ。