【H×H 短編集 ✴︎ R18】狂気の先にある日常
第1章 赤いシャツ ※裏 イルミ×使用人
「イルミ様」
「何?」
「……私を殺さないんですか」
「なんで?」
「私は貴方を刺したのに」
シャワーを浴び終えた頃には、イルミの傷口はすでに血が固まり始めていた。
「そうだね」
さっきまでシーツを染めていた出血が嘘のように、濡れた髪をタオルに吸わせている。
「それでも俺を刺しに来る度胸がある」
イルミは顎へ指を添える。
「この屋敷には俺の文句を言う奴は多い。けど、そんなことをする奴は使用人は愚か、家族にすらいない」
「ええ、それはそうですけど……」
「将来有望。見込みあるじゃん。殺すなんて勿体ない」
(見込みなんてどうでもいい。血の匂いが嗅げたら……それだけで)
「でも、そのやり方だけじゃ通用しない」
イルミは乾いたタオルで髪を拭きながら、淡々と続ける。
「刃物も悪くないけど、相手を選ぶこと。念能力者相手なら、もっと確実な手を考えた方がいい。……まあ、最後まで俺を殺そうとしてたのは良かったかな」
一度満たされた渇望は、もう終わらなかった。ナレッタは、自分が再びイルミの血を求めることを予感した。
「私はまた、イルミ様を襲うかも知れません」
「そう」
イルミは髪を拭く手を止めもしない。
「別にいいよ」
「……え?」
「今のままじゃ、何回来ても結果は同じだから。でも、その執念は嫌いじゃない」
「……」
「普通一度痛い目に合わせられた相手には本気で向かっていけない。殺さない前提の訓練でもね。その気合いはキルにも見習わせたいよ」
「そんな、私なんてただの無謀な命知らずの愚か者です」
「それでも、なかなか良かったよ。またヤリたくなったらおいで」
ナレッタは思わず息を呑む。
「期待してる」
タオルを肩へ掛けたイルミは、それだけ言うと何事もなかったように部屋を出ていった。
Fin.