第5章 再婚の提案
春の終わり頃。スヴェトザールは近隣貴族の邸宅に招待され、晩餐会に参加していた。
15人程の食卓で近況や趣味の話が交わされる。
領地の話や狩猟の成果の自慢、最近聴いた音楽や読んだ本、愛馬の出産の話などが緩やかな調子で繰り広げられていた。
やがて食事が終わり、主催の夫人や女性客らが先に退室し別室に移っていく。
男性陣でダイニングルームに残って酒を飲みながら政治の話をしていると、主催の侯爵がスヴェトザールに言う。
「スヴェトザール、そろそろ再婚を考えてみないか? たとえば君の斜向かいに座っていた令嬢……最近成人を迎えたことだし、彼女も君に興味を示していた」
ほろ酔いの赤らんだ笑顔を浮かべつつ、至って真面目な様子で侯爵がそんな提案をする。
席を共にしている軍人や地主も興味ありげにスヴェトザールの方を見た。
「……再婚、ですか」
「この後2人きりで話してみてはどうだろう。案外気が合うかもしれない」
スヴェトザールは自分の杯に残っているワインの水面を少し見つめる。
「いえ、困っていることも特にありませんので。……息子に早く帰ると約束しているので、本日はこの辺りで失礼させていただきます」
「そうか。まあ気が向いたらいつでも頼ってくれ」
スヴェトザールは侯爵に早めの辞去を詫び、邸宅を出て馬車に乗り込む。
もうすっかり暗くなっている。帰り着くのは21時頃だろうか。その頃にはトレーネスはもう眠ってしまっているかもしれない。
乳母の提案で、寝る前の本の読み聞かせをすることになっていた。
スヴェトザールは馬車の前部の小窓を開け、御者に声をかける。
「少し急いでくれ」
「かしこまりました」
言うや御者の掛け声と鞭の鋭い音が響き、
馬車の揺れが少し大きくなった。蹄鉄が路面を打つ音と車輪の振動が、先ほどよりせわしなくなる。
20時半頃、スヴェトザールの乗る馬車はコズロフ邸に到着した。
「おかえりなさいませ、旦那様」
使用人たちが出迎える中、スヴェトザールは辺りを見回す。息子と乳母の姿はない。
スヴェトザールは脱いだ外套を従者に預け、そのままトレーネスの部屋へ向かう。
そっと扉を開けると、室内は明るかった。ランプの灯がまだ落とされていない。