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緋色の誓い

第2章 始まりの合図


斗亜は箸を取り、飯を口に運ぶ。

味は普通だ。

汁も問題ない。

だが茶を口に含んだ瞬間、舌の奥に僅かな違和感が残った。

苦味とも、渋みとも違う。

鼻に抜ける匂いが、どこか不自然だった。

斗亜は表情を変えない。

もう一口だけ、ゆっくりと含む。

「…っ?」

毒だ。

量はごくわずか。

殺すためのものではない。

体を鈍らせる。

反応を遅らせる。

眠りを深くする。

そう言う類の毒だと、すぐに分かった。

斗亜は、そこで箸を置いた。

「ご馳走様」

誰も見ていない部屋で、静かに呟く。

布団に横になり、天井を見つめる。

呼吸は乱れない。

体も重くならない。

口にした量が少なすぎる。

斗亜は目を閉じ、眠ったふりをする。



夜は静かだった。

風の音もなく、町全体が眠りに落ちている。

斗亜は布団に横になったまま、呼吸を整えていた。

目は閉じている。

だが、意識は冴えている。

毒は、効いていない。

それでも、この夜に何も起きないとは思っていなかった。

わざわざ盛られた毒。

偶然のはずがない。

来る。

そう確信して、じっと待つ。

どれほど時間が経ったか。

深夜、障子の向こうに気配が生まれた。

足音はない。

だけど気配は隠しきれていない。

障子が、僅かに開く。

月明かりが、細い線となって畳に落ちる。

そこに伸びる人影。

ゆっくりと中に入ってくる。

斗亜は、まだ動かない。

相手の手に、鈍い光。

刃物だ。

距離がゆっくりと詰まる。

殺意が、はっきりと伝わってくる。

踏み込む気配を感じて、斗亜は一気に起き上がった。

刀を抜く。

鞘走りの音が、静かに部屋に短く響く。

宿主だった。

老いた男の手に、刃物を見る。

震えている。

だが、覚悟が固い。

「…っ」

宿主が息を呑むより早く、斗亜は間合いに入った。

刃物を弾き落とし、体を壁際へ追い詰める。

切っ先が喉元で止まる。

斬らない。

だけど、逃げ場はない。

宿主は荒く息を吐き、震える目で斗亜を見つめた。

「やはり…」

声が、かすれる。

「人斬り抜刀斎か…」

否定もしない。

肯定もしない。

ただ、静かに問いかける。

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