【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第3章 【二巡目】
「……ハッ!!!」
意識が急浮上する感覚。前と、全く同じだ。
焦ったように周りを見回すと、そこは夕暮れの共有キッチンだった。目の前では、透が爆豪の手元を覗き込んでいる。
「爆豪くん、良い旦那さんになりそう」
感心したような口調。
あの日だ。一緒に自主トレをして、あの魔のコンビニを避けて直帰し、寮でアイスを作っていたあの日。
心臓が暴れていた。冷や汗が背筋を伝う。爆豪は首に手をやった。傷はない。血も出ていない。
生きている。今度は、目の前に透がいる。笑っている。「良い旦那さんになりそう」と、あの間の抜けた声で。
爆豪はフライパンの取っ手を強く握りしめた。指先が白くなるほどに。
記憶が鮮明に蘇る。抉れた腹。溢れる血。「ごめんね」と声にならない声。床のケーキ。そして、自らの首を裂いたナイフの感触。
爆豪は乱暴に振り返った。火がついたままのフライパンが危うく傾く。
「水無月」
名前を呼んだ。いつもは「お前」か「テメェ」なのに。
思わず木ベラを手放して、透を引き寄せ、強く抱きしめる。
「え、!? あれ?? 爆豪くん!??」
突然の行動に、透は慌てて真っ赤になった。
腕の力が強すぎて、透の華奢な身体が軋むほどだった。だが緩められない。離したら、またあの煙の中に消えてしまいそうで。
フライパンから煙が上がり始めていた。アイスの材料が焦げる不快な臭い。だが爆豪は微動だにしない。
その声は、本人は気づいていないが細かく震えていた。
「どこにも行くな」
それだけだった。理由も脈絡もない、唐突な懇願。透からすれば、料理中に突然抱きしめられて意味不明な台詞を吐かれているだけだ。
しかし爆豪の中では、たった今、一巡目の記憶が全て残っている。あの笑顔が血に沈む光景。ケーキが床に落ちる音。ビーッという電子音。自らの首から噴いた赤。
透の肩に顔を埋めたまま、爆豪は声を絞り出す。
「頼むから……っ」
「へぇ!? あ、あの、近い……、爆豪さん……??」
意図がわからず、透は混乱する。それでも、恐る恐る手を回して、爆豪の背中をぽんぽんと撫でた。
「一応……、今いますよー、ここに……」