【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第2章 【一巡目】
ハッと意識が覚醒した瞬間、身体中から嫌な汗が噴き出した。
「は? なんだ、これ……っ!?」
確かに、あの雨の日。強盗に背中を刺されたはずだった。それで、意識が遠のいて――。
綺麗な制服に身を包んだ爆豪は、雄英高校の廊下に立ち尽くしていた。どこを見ても怪我一つしていない。
開け放たれた窓から生ぬるい春風が吹き込み、張り詰めた頬を撫でる。窓の外には、爆豪の誕生日にはすっかり散っていたはずの、鮮やかなピンクの桜が咲き誇っていた。
自分の手を見る。傷がない。背中にもあの焼けるような痛みはない。制服は新品同様で、血の跡などどこにもなかった。混乱が容赦なく脳内を駆け巡る。
(夢……? いや、違う。確かに俺は……!)
あの雨の冷たさ、背中を裂かれた熱さ、腕の中で冷えていく骨壷の重さ。そのすべてを完全に覚えている。夢で片付けられるほど、曖昧な記憶なんかじゃねえ。
桜の花びらが一枚、窓からひらりと舞い込んで爆豪の足元に落ちた。
膝ががくがくと震え、心臓の音が耳の奥でうるさく脈打つ。死んだはずだ。自分は確実に死んだ。
「……なんだ、これ」
のろのろと拾い上げた花びらは、間違いなく本物だった。指先に伝わる柔らかな感触。幻覚にしては、あまりにも精巧すぎる。
ふいに、ある名前が頭をよぎった。あの山吹色の瞳をした、白い髪の少女の姿が。
廊下を走る足音が響いた。小さな白い塊が、爆豪の目の前で角から勢いよく飛び出してくる。すんでのところで衝突を免れた。
飛び出してきた山吹色の瞳が、こちらを向く。白い髪の毛の揺らめきと、微かに漂う紅茶の香りに、胸が締め付けられるほどの懐かしさを覚えた。