第15章 日々
「あれ、とは」
「いや、ノルバートお嬢様ーって」
「……」
「……聞かない方がいい……」
「えー?」
「悪ふざけの産物、というか……」
そんな彼の様子に、シシィは悪戯っぽく咳払いをした。
「そんなこと言われたら、余計に気に……ンッ、なりますわ、ね?」
何か始まった。
「……いけません、お嬢様」
「はっ!? じいや!」
すぐに耐えられなくなり、二人して吹き出す。
肩を振るわせながらシシィは彼の方を見た。ノルバートも完全に笑ってしまい、お茶を飲もうとしては諦めてまた置いている。
「色んなあだ名で呼ばれはするけど、じいやは……新鮮だなあ……」
その言い方が妙にしみじみとしていて、シシィはなかなか笑いやめられなかった。
そんなやりとりをして、
後日。
「じいや〜」
シシィは最近、もうすっかりこの呼び方を気に入っている。
ノルバートも振り返り、ふふ、と笑う。
「どうされましたか、お嬢様?」
「今日の授業って全部終わった?」
「専攻の課題だけ出しに行ったら、もうやることはないかな。あ、今日校庭に古本屋来てるのか……あとで行く?」
「行く! あとね、クッキーのお店も出て、ますわ!」
「それは見逃せないね。お供しましょう」
「やった! じゃあ、終わったら声かけて〜」
当人たちにはもうお決まりの冗談となっている。だが周囲では、ちょっとした事故が起きていた。
え?! 『どうされましたか、お嬢様?』って、今マジでいった?? 上品男子が微笑んで、『お嬢様』……!!!
たまたま廊下にいて、二人の会話を聞いてしまった彼女は隣のクラスのリタである。
なになにどういうこと? 刺激が強すぎる。
そんなん、好きになっちゃうじゃん!!!でも、あれってさあ……あきらか……
そのまま自分の教室に飛び込むと、ちょうど帰り支度中の友人がいたので被害報告をする事にした。
「ちょっと聞いてよ」
「どしたの」
「さっき好きな人できたかもだけど脈ないのもうわかる」
リタの言い切りに友人は少し困惑した。
「いや諦めるの早くね? なんかあったの?」
「それが、さっき廊下でさ!! かくかくしかじか……、て感じで、流れ弾にあたって瀕死です」
「ごめん本当に脈ないやつだった」