第15章 日々
週末の男子寮は、日付を越えても賑やかだった。
「え〜おいおい! なに? どういうこと??」
談話室のソファに寝そべっていた一人が、突然騒ぎ出した。
周りに屯していた面々が、どうしたどうしたと寄っていく。
「なんか……っ、読んでたやつにとんでもないシーンきた、これ!! えっ? 何してんの???」
皆で、彼が掲げて見せたページを覗き込んだ。
「……」
「……濡れ場、だね」
遠慮がちに判定を出したノルバートを皮切りに、皆が口々に騒ぎ始めた。
「なるほどね!! えっちじゃん!!」
「びっくりしちゃって〜。かわい〜」
ここでようやく、彼は意味を理解したらしい。
「……え? これそういうシーン?」
「そういうシーンです!」
「純情??」
「違っ……おい! 落ち着け陸上生物ども」
じゃれついてくる友人達を振り払いながら、彼は尾鰭をばたつかせ抗議した。
「俺の種族! 体・外・方・式!! お前ら哺乳類の夜事情なんて知らねーー!!」
そんな種族対抗のつつき合いがやっとひと段落した時だった。
一人が口を開いた。
「……てかさっきさあ、ノルバートお嬢様が『濡れ場』って言ったの俺聞き逃してないからね。そっちの方が事件だろ」
皆が一斉にノルバートを向いた。
「…………言ってないよ」
「おっしゃってましたわ」
「あら、目が合いませんわ」
「『……濡れ場、だね』」
「絶対言ってた」
「知りません」
しまった。またこの流れになってしまった。ノルバートは内心頭を抱えた。
試験明けの談話室の夜は長い。いじられ役は持ち回りだが、今夜は当分は自分の番だろう。
男子寮は入学当初から、たびたび下品な話題で盛り上がることは少なくなかった。特に近頃は、打ち解けたぶんその頻度もさらに上がっている。
ノルバートも、空気を壊さない程度には合わせて会話し……ただし、自分から踏み込んだ用語を使うことは控えていた。それが、裏目に出た。
「ノルバートくんこういうの大丈夫?! ごめんね!」
「おいお前! ノルバートお嬢に何聞かせてんだ!」