第9章 作る人
「はあー……なやむ〜」
図工室の一画で、シシィは今日もキャンバスを前に唸っていた。
魔法絵画は絵の具にまじないを込め、鑑賞者に様々な体験をもたらす、という魔法と芸術が混じった分野だ。
絵の中の猫を撫でてかまったり、高度なものになると描かれた風景の中に入って散策が出来たりなど表現の幅は広い。
とは言うものの、この大学だと一年生のうちはあまり魔法は使わずにデッサン、それか一般的な絵画制作の課題がほとんど。要するに基礎固めに重点を置いている。
「どうなんだろ、これ」
うまく描けたと、思ってたんだけど。
今見ると……微妙?
少し筆を進めては遠く離れて眺めたり、近くから見たりを繰り返す。
ぐるぐるするのに疲れて、シシィが軽く伸びをしかけたのと同時に、図工室の扉が開く音がした。
「シシィ、おつかれさま」
彼は今日も図書室の印がついた本を小脇に抱えている。立ててある生乾きのキャンバスの壁を上手く避けながら、そばまで歩いてきた。
「あ、ノルバート〜」
「どうかしたの、あ、苦しみ中?」
シシィの少しばかりだらけた姿勢と声の調子に、彼は察したようだった。
「ばれた? そうなの〜。すんごい苦しんでる!」
そっか、とやわらかく笑って、ノルバートはシシィのそばに腰を下ろし、描きかけの絵を眺めた。
「これ、前回の展示で出してた絵? 加筆してるんだ」
「うん、ちょっとね……」
シシィは絵の具がついていない指で頭を掻く。
「こないだの学内展でアドバイスくれた人がいて。印象薄めだからもっとインパクト! とか、色々聞けたから、それも参考に直してるんだけど……わかんなくなってきちゃって。あーー、どうしたら絵ってかっこよくなるの? ほんと、進まない〜!」
「これは、今日も戦ってるね……」
「うう……」
集中力が切れたついでに、シシィはノルバートが借りてきた図書室の本に目をやった。
今日は美術書だ。ノルバート自身は創作はしてないって言うけど、本当に色々と読んだり見たりしている。
だからちょっとだけ、勇気を出した。